ジェラルミンケースと双六

 僕が、地球儀を撫でていると、姉が、大きな真っ黒のジェラルミンケースを
持ってやってきた。夜の十一時を回っていた。
 
 「闇」と名づけたジェラルミンケースの中から、姉は手作りの双六を出した。コマは、姉をそっくりそのまま小さくしたようなミニチュア。
 
 フィギュアではなくて、自分を複製してから、ドラえもんのスモールライトを当てて作ったのだと姉は言った。つまんでも無表情だ。
 
 双六には、ところどころ、姉の「モトカレ」達のミニチュアが待機していた。モトカレたちも、つまんでも無表情だった。
 
「趣味、悪いな」
 
 と、僕は言った。

 姉は自分のミニチュアを「スタート」のところに置いた。
 僕がサイコロを振った。
 
 でも姉のミニチュアは、サイコロを無視して勝手に進みたいだけ進んで、桜の咲いているマスのところで花見をしている。
 僕がまたサイコロを振って「4マス進む」と言っても、ミニチュアの姉は無視をしているので、姉に文句を言うと
 
 「大丈夫。ちゃんと聞いているから」と言う。
 だから、僕もしょうがなく、彼女をただ見ていた。

 花見が済むと、ミニチュア姉は突然走り出した。
 最初に、5マス先にいたモトカレを殴った。
 モトカレは、鼻血を出して倒れた。
 
 そのまま、ミニチュア姉は息を切らせて、マスを進んでは、次々とモトカレたちを殴り倒していった。
 姉は涙を流して大笑いしている。
 
 僕が「趣味が悪いな」ともう一度言うと、ミニチュア姉は僕をキッと睨みつけ、「あがり」まで全速力で走った。
 
 「あがり」のマスには、どこかの韓国俳優にそっくりの男が出てきた。
 ミニチュア姉を、韓国俳優は抱きしめ、そのままコトがはじまってしまった。
 
 僕は恥ずかしくなって横を向いた。
 姉はまだ大笑いしている。
 
 「あがりはSEXなのか?」
 と僕が聞くと、
 「他に何があるのよ?」
 と姉が問い返した。
 
 すべてが終わって、姉はジェラルミンケースに双六をしまった。

 「また明日くるわ」と姉が言った。
 僕が「もう飽きたよ」と言うと、
 「次は、新しいの作ってくるから。今晩のは『殴る版』だったの。次は、何がいい?」
 と、姉が聞いたので
 「踊る版」と答えた。
 
 僕は、地球儀を元の位置に返した。
 そして、ジェラルミンケースの中の漆黒を想った。
 
  (完)