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完璧に美しい女

完璧に美しい女

 小川のほとりにしゃがんで、キラキラ光る水面をぼんやり眺めていた時だった。
 僕のとなりに、アンドロイドのような完璧な美しさを持った女が並んで座った。
 完璧に美しい女は僕を見て微笑んで言った。
 「今度遭ったときは、私に何をしてもいいわよ」
 そして、彼女は森の中に去っていった。
 あれから僕はほとんど毎日、この小川のほとりで、女に遭えるのを願った。
 
 もし彼女に会えたら、どんなことをしようかと、あれこれとしょっちゅう考えた。
 
 それは恋というのとは、少し違った気がした。
 女は言ったのだ。どんなことをしてもいいと。

 四十五回目に、女は、僕の隣に座った。
 僕は、女を家に連れて帰り、もちろん、彼女を自分のものにした。
 そして、決して外に出るなと言った。
 アンドロイドのような美しい女は「わかった」と答えた。
 僕は好きなだけ女を抱いた。
 女は三度妊娠して、僕は責任を取らなかった。
 子供を産むときだけ、女が森に帰るのを許した。
 子供がどうしているのか、僕は聞いたことがなかったし、女も言わなかった。
 そうやって、女と何年も交わっていた。
 
 ある時、風呂から上がった女を改めて眺めると、下腹に傷跡があった。
 聞けば、盲腸の手術の痕だった。
 アンドロイドの美貌に、手術の痕なんていらない。
 僕は、だんだんこの女がうっとおしくなってきた。
 「森に帰れよ」
 僕は言った。
 
 「私に何をしてもいいけれど、それだけはできないわ」と女は言った。
 頭にきた僕は、女を鉄の棒で殴り殺した。
 女は抵抗しなかった。たぶん、何をしてもいいからだろう。
 彼女はすべてを許した。でも、そのことに僕は気づかなかった。
 
 大汗をかいて、肩で息をしながら、目覚めた。
 
 そこで僕ははじめて、自分が何をしてしまったかに気づいた。
 
 僕は女のために泣いた。泣けて泣けてしようがなかった。
 女に逢いたい。
 完璧に美しい女の、たった一点の盲腸の手術の痕が、今はもっとも愛おしく思えた。
 次に逢ったら、僕は女の手術痕にキスをしよう。
 毎日毎日抱きしめて口づけよう。
 そして、産み落とした三人の子供を育てよう。
 
 僕の腹に、女神を吹き込んだその女に三たび逢うために、
 僕は六百五十回生まれ変わることに決めた。
 
 その日まで、決して裏切ることがないように、僕はペニスを切り落とした。
 そしてそれを女の元々の夫だった月の神に託す。
 
 僕は捜す。あの娼婦を。
 僕は捜す。あの聖母を。
   (完)

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