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鎌倉殿考〜救わず救う〜

NHKのサイトより。政子:小池栄子、義時:小栗旬

今年の大河ドラマが終了した。

言わずと知れた鎌倉時代初期〜中期のあれこれを描いたドラマ。

うんざりするほどの疑心暗鬼の世界に、途中、何回も挫折しかけたが、三谷さんの脚本がおもしろいので、最後まで鑑賞できた。

個人的には、最終回、最後の最後がめっちゃ好きなシーンとなった。賛否両論ありそうな場面ではあったけれど、ワタクシ的には、あれはすごい。

 

ーーここからはネタバレなので、NHKオンデマンドで見るつもりの人は閉じてねーー

 

血塗られた幕府創建譚を、しみじみ語り合う北条政子と義時姉弟。いろんなことがあったけど、おかげで王族一党支配から、実力の武家社会に切り替わったと胸を撫で下ろしている風情の二人。やっと平穏が……という穏やかな雰囲気の中で、物語のシメがはじまる。

しかし、義時には、まだ政敵を討たんとする野心(というより邪心やな)があることを知った政子。

実は義時は、すでに病(嫁に毒を盛られていた)に侵されており、その場で倒れ込み、姉政子に薬を所望する。「姉君……」と悶える義時。

政子は薬を手渡さず、その場で、薬壷を逆さに向け、流す。

それは、あいも変わらず裏心を持ち続ける彼の本心を知った政子のとっさの行動。「おつかれさまでした」と静かに言葉をかけ、涙をすする政子。そのまま暗幕。彼女の小さな嗚咽が響く。完。

 

薬を懇願する弟を、ある意味、痛烈に裏切った非情なシーン。

でも、私には「愛」のシーンだと感じた。深い深い愛のシーン。彼が憎くてやったわけではない。彼を、そして武家社会を、ほんとうの意味で愛した人。私には、そういう描かれ方に見えた。

本当の救いとは、政子にとって、安易に薬を渡すことではなかった。今までは、そうやって幾度も、彼女は弟に「裏切られて」きたのだ。

だから、あの場で、非情であってもそれを遂げる本当の強さ。しかも、とっさに。

究極の骨肉の争い。悲痛な彼女の涙。でも、どこか温かい何かがある気がした。

彼女は、弟の最期を救わず、弟を救った。

 

稀代の悪女とされる政子さんなので、本当のところは、だれにもわからないけれど、こういう描かれ方をしたなら報われるよなぁ〜と思えた。美しいシーンだとさえ思った。

 

『鎌倉殿の13人』はそこで終わるが、

実際、その後、義時の息子の泰時は、かの御成敗式目を制定する。当たり前の人間の良心を法典化した初の武家法典とされる。疑心暗鬼で、愛の乏しい世の中だったからこそ、あの物語を見た後は、法典化の必要を激しく感じたのだとわかってくる。

その後の武家社会で、ずっと通用していたというこの式目。泰時は道理に重きをおいたとされる常識人。健全な常識や良心とは何かを問い続けた、正しい人なんだろうな。

世界が乱暴で混沌としていた時代においては、法典とは、ものすごく重要なのだと思う。そして、そもそもは、だれか(泰時)の愛がはじまりだったんやね。あの物語を見て想像すると、その成り立ちに、すごく納得させられる。

 

ただ、もう千年近く昔の話。今も常識とするのは、かなりのズレは出てくるだろうなあ。法典や律令で取り締まらなければ乱世になる世界とは、人間は守らなければならない弱い人が多いと信じられていたからだろう。

成立の根拠は愛であっても、世界の根底は愛ではなかった時代の、あたりまえの観念。もう、違う星。

彼の魂は、ひょっとしたら、今、日本のどこかに再誕して、次は、法典を越えて平穏に暮らせるということを、明かしながら生きているかもしれない。知らんけど、そうやったらええなと願う。

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